オフィスや事務所の退去時に必要となる原状回復工事は、想定していたよりも高額となることがあります。特に入居時の契約内容のすり合わせがあいまいだと、原状回復工事の範囲についてトラブルが生じるケースも少なくありません。
本記事では、オフィス・事務所の原状回復義務の一般的な範囲や費用相場、よくあるトラブルとその回避策などについて解説します。コストを抑え、トラブルなく退去するために、ぜひ参考にしてください。
そもそもオフィスや事務所の原状回復義務とは、オフィス・事務所を退去する際に、借りたときの状態に戻してから貸主に返却する義務のことを指します。居住用の賃貸マンションや賃貸アパートと同様に、事業用賃貸物件でも原状回復が必要です。
オフィス・事務所の原状回復義務の具体的な範囲は、賃貸借契約書により定められています。契約内容によって原状回復義務の範囲は異なりますが、通常損耗や経年劣化については、住居と異なり借主の負担範囲内とされることが一般的です。
そのため、賃貸借契約書をあらかじめよく確認しておくことが大切です。
契約書に記載がある内容は覆すことが難しいですが、そうではない場合は交渉の余地があります。借りている期間が短い場合や、オフィス・事務所を使用する人数が少なく部屋の汚れが少ない場合、クリーニングだけで済ませられないか、または工事範囲を狭められないかを貸主と交渉してみるとよいでしょう。
原状回復では、入居後に新しく設置したものは撤去し、入居後の使用により損傷したものは交換するといった工事が行われます。具体的な工事内容の例は、以下の通りです。
● 間仕切りの撤去
● 床のタイルやカーペットの張り替え
● 壁紙の張り替え、塗装
● 天井の補修、交換
● 照明の撤去、管球の交換
● 窓やブラインドの清掃、交換
● デスクや椅子の撤去、残置物の廃棄
● 床下配線の撤去
● 造作物(バーカウンターや簡易キッチン、後付けした照明など)の撤去
入居後に大きく間取り変更を行った場合や、壁や収納の造作を行った場合は、退去時にそれらの撤去が必要となり、原状回復工事の範囲が大きくなる傾向にあります。逆に、入居後に特殊な内装工事をほとんど行っておらず、仕切りなども設けていない場合は、原状回復工事を最小限に抑えられます。
オフィスや事務所の原状回復工事にかかる費用は、さまざまな条件により変動しますが、以下が目安となります。
● 50坪以内のオフィス:坪単価3万〜8万円
● 51〜100坪のオフィス:坪単価6万〜11万円
● 101〜300坪のオフィス:坪単価8万〜17万円
● 301坪以上のオフィス:坪単価15万〜44万円
これらの坪単価はあくまで目安であり、実際の費用はケースバイケースです。オフィスの規模以外にも、工事内容や立地、業者などの条件により費用が変わるため、事前に詳細を確認しておきましょう。
原状回復工事の費用が変動するのには、さまざまな要因があります。受け取った見積もりが適切かを確認するためにも、費用が増減する主な要因について把握しておきましょう。
オフィスや事務所に大掛かりな内装変更や設備追加をした場合、原状回復費用が高額になる場合が多いです。例えば、バーカウンターやシャンデリアのような特別な内装を設けたり、防音室やクリーンルームなどの特殊な用途の部屋を設けたりする場合は、これらを元に戻すための費用がかかります。さらに、役員室などの個室を設けるために間仕切り壁を設置したり、エアコンや電話回線を増設したりした場合も、これらを撤去する費用が追加で必要です。
反対に、特別な内装工事をほとんどしておらず、間仕切りなども設けていない場合は、原状回復費用を抑えやすいでしょう。
入居しているオフィスビルが高価格帯に分類されるような物件である場合、原状回復工事の費用が高くなるケースがあります。ハイグレードなオフィスビルでは、床材や壁材、照明などの内装に高品質な素材が採用され、設備も新しいものが整っていることが多いです。それらに合わせた復旧工事が必要となるため、どうしても単価が上がる傾向にあります。特に入居していることで採用や社外との取引に有利に働くようなブランド価値の高いビルでは、指定された仕上げ材や施工基準を満たすことが求められる場合があり、工事費用を増加させる要因になります。
また入退室管理システムが導入されているオフィスでは、退去時にシステムの設定変更や機器の撤去作業が必要になるケースも。これらは専門業者による対応が必要となるため、通常の原状回復に加えて追加費用が発生しやすいポイントです。
さらに、空調・電気・セキュリティなどを中央で一括管理しているビルでは、坪単価が高めに設定される傾向があります。これは、ビル全体が省エネや快適性を維持するために高度なネットワーク制御を行っており、原状回復工事を行う際にもそのシステムに対応した専門的な作業が必要になるためです。場合によっては、ビル指定の管理会社や設備業者でしか工事ができないケースもあり、その分コストが上乗せされます。
見積もりを取る際は、内装材の仕様や設備の構成、ビル特有のルールなどを事前に確認し、追加費用が発生しやすいポイントを把握しておくことが重要です。
物件によっては「居抜き退去」という、内装・設備・オフィス家具などをそのまま残して退去する方法を選べる場合があります。大部分の原状回復工事が不要となり、工事費用を大幅に抑えることが可能です。また業者の選定やスケジュール管理などの手間も発生しないため、移転直前まで通常通りの業務を続けられるというメリットもあります。
さらに、次に入居する企業にとっては、既存の内装や設備をそのまま使えるため、入居に伴う費用を削減でき、双方にとってメリットがある方法だといえるでしょう。
ただし、居抜き退去を行うには、物件のオーナーに承諾を得る必要があります。次の入居者が決まらなければ居抜き退去を承諾してもらえない場合もあり、移転に間に合わなければ、限られたスケジュールで原状回復工事を手配しなければなりません。
一般的に事業用賃貸物件の原状回復については、原状回復工事を行う業者が指定されているケースが多いです。このような指定業者制度を採用している物件では、価格競争が起きにくく、相場より高い工事費用になる傾向があります。オーナーや不動産会社が業者を決めているため、実質的に言い値での工事となってしまうのが主な理由です。
ただし、指定業者であっても費用の交渉は不可能ではありません。他の業者から見積もりを取得しておけば、値下げ交渉を有利に進められる場合があります。
なお、見積もりが適正かどうかを判断し、費用を妥当な水準まで下げるには、建築や宅建、法務といった専門知識が必要で、個人で対応するのは難しいこともあります。不安がある場合は専門家への相談がおすすめです。
原状回復工事は、オフィスや事務所の退去時に避けて通れない作業ですが、内容や費用を巡ってトラブルが生じるケースもあります。ここでは、代表的な3つのトラブル事例とその回避策をご紹介します。
原状回復工事では、不当に高額な見積もりを提示されたり、本来必要のない工事を盛り込まれたりするトラブルが発生することがあります。特に初めてオフィス・事務所を退去する企業の場合、適正な金額を判断する基準がなく、業者の言い値に近い形で契約を結んでしまうこともあるでしょう。
こうしたトラブルを防ぐためには、複数の業者から見積もりを取り、価格や工事項目を比較することが大切です。見積もりを依頼する場合は、概算ではなく、現地調査を行ってもらいましょう。現場の状況を確認せずに出された見積もりは、後から追加費用が発生するリスクが高いです。
また見積書の内容は項目ごとに細かくチェックし、気になった点については「なぜこの工事が必要なのか」「なぜこの価格なのか」を業者に説明してもらいましょう。工事項目が一式でまとめられている場合は、可能であれば詳細な内訳を提示してもらうと適正かどうかを判断しやすくなります。さらに、ビル側が指定した業者であっても、他の業者が提示した見積もりを比較材料とすることで、費用交渉に生かせる場合があります。
もし自分だけで判断するのが不安な場合は、建築や不動産、法律の専門家に相談し、見積もりの妥当性を確認してもらいましょう。専門家のアドバイスを受けることで、不要な工事や過剰な請求を防ぎ、適正な価格で依頼しやすくなります。
原状回復では、工事範囲が契約書で明確に定義されておらず、本来不要な工事まで請求される可能性もゼロではありません。共用部分の改修工事や設備のアップグレード費用まで負担させられたりすることもあります。
こうした事態を避けるには、まず契約書を徹底的に読み込み、貸主・借主の責任範囲を確認することが重要です。その上で、見積もり内容と契約書を照らし合わせ、不要な工事が含まれていないかを確認しましょう。疑問点があればオーナーと交渉し、不当な費用負担を回避する姿勢が求められます。
自社独自の内装や設備を導入していた場合、それを撤去して元の状態に戻すための原状回復費用が想定以上に高額になることがあります。特に、水回りの増設や移動、電気設備の配線変更、大規模な間仕切りの設置など、建物の構造や設備に関わる改修を行っていた場合は復旧工事の手間が大きく、その分コストもかかりやすいです。
またデザイン性を重視した間仕切り壁や特注の造作家具を備え付けた場合も、注意が必要です。撤去や処分に専門的な作業が必要になることがあり、一般的なオフィスよりも解体・処理の費用がかさむ傾向があります。
こうしたトラブルを防ぐには、退去前に賃貸借契約書や工事履歴を確認し、何が原状回復の対象になるかを明確に把握しておきましょう。先述した通り、あらかじめオーナーに交渉しておけば、内装や設備をそのまま残して退去する居抜き退去も選択肢に入ります。
オフィスや事務所の原状回復をする場合は、契約内容や内装の状況、ビルのグレードなどによって費用が大きく変動します。相場よりも大幅に高額な費用を請求される可能性もあるため、事前にしっかりと契約書の内容を確認し、複数の業者から見積もりを取得しましょう。
なお、オフィス・事務所の原状回復では、居抜き退去の活用やオーナーとの交渉によって、コストを抑えられる可能性もあります。不安がある場合は専門家の力を借りることで、無駄な費用を避けつつ納得できる原状回復を進められるでしょう。
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